出口治明(ライフネット生命保険 創業者):田中將介が聴く

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【ハフポストに合わせて順次公開予定】

はじめに

「教養は大事」と、学校教育の中でも外でも口酸っぱく言われてきましたが、私はその必要性が一切わからず、いや、正確に言えばわかろうともせず、ここまで過ごしてきました。「教養なんて、大人たちが知識を見せつけたいだけ」という押し付けのイメージを拭えないひねくれ者な学生でした。

他にも「そもそも教養ってなに」「人によって教養って違うのでは?」という声が聞こえてきます。

日本の地方、他の国や地域で自給自足する人たちにとっては、「野菜の育て方」がその人にとっての教養かもしれません。目の前のことを楽しむこと、小さなしあわせがあればそれでいいと考える人にとって、一般的に言われる古典や歴史などの教養は認識すらされていないかもしれません。

私自身もなんとなく教養は必要だとは思うけれど、他に読みたい本を優先してしまったり。「日本は世界からおいていかれる」と説く大人たちの叫びは、世界と競う発想がない若者の耳には届かない。小さな世界に閉じこもる人が増えてきて、教養との分断がさらに進む。

こんなマイナスの発想を変えたいと、教養は日常を生きる人にとって何が大切なのか、そのヒントをもらいに、出口さんの会社「ライフネット生命」に足を運びました。

実はもう1つ、このインタビューにはテーマがあります。

私は、「世の中にもうすでに出ていることは絶対に聞かない」というこだわりをもっています。出口さんとなると、「経営論」とか「生き方」、「若者へのメッセージ」などを聞いた方が、読者にとっては面白いかもしれません。しかし、

その人が一度も聞かれたことも、発言したこともない「対極にあるもの」や「発言をさらに突っ込んだもの」を聞くということを大事にしています。

しかし、その対極にあるものが見つからない・・・。

どの道を辿っても、その教養の豊富さに重なってしまうのです。恐るべき出口さん。それでも時間をかけて準備をし、インタビューに臨みました。少しでもお役に立てると嬉しいです。

 

 

第一回:教養とは自分が得をするということ

 

田中:不寛容や分断という言葉が世間を賑わせはじめてから、未だにその社会の閉塞感は収まるどころか、より加速しているように感じて、とても息苦しさを感じています。何か言えば、その言葉の文面のみを切り取り、適切な批判ではなく、自分のやりきれない怒りのはけ口として人を無意識に傷つけている。発言の背景への小さな想像力が弱くなっているのでは、と思うと同時に、その恐怖から失敗することを恐れる人が増えていると感じます。少なからず私のその一員です。

そんなときに、これまでどこか遠ざけてきた「教養」について、お話を聞いたり、本を読んだりする機会がありました。それがまさに、「リーダーの教養書」で、出口さんが話されていたことでした。そこで「教養」って思っているより堅苦しい話ではなくて、というよりそもそも教養というから敬遠する人増えているのでは思うとともに、

教養こそが、今の分断や不寛容な社会の一助になるんじゃないか、その仮説を確信するために来ました。

その話からさらに踏みこんで、私の疑問も好きにぶつけていきますのでよろしくお願いします(笑)

 

 

出口:はい、こちらこそ、よろしくお願いします、書きやすいように聞いてください(笑)

 

田中:ありがとうございます(笑)

 

 

出口:簡単に言えば、教養=リテラシーと言い換えられます。リテラシーが低ければ自分が気づかないうちに損をしてしまうという話です。

 

 

 

こういう話をしましょう。

君が34万円、パートナーに12万円の収入があります。合わせて46万円ですね。そして銀行口座に145万円ある、だから51万円を使っているけれども、必ずしも収入と支出がイコールでなくても生活が成り立つという世界がある。

 

 

田中:はい。

 

出口: 51万円の支出が55万円に増えたら、どうしますか。

 

田中:節約を考えます。

 

出口:でしょう。

普通の家庭であれば、節約する、パートナーに働いてという(収入を増やす)、それでも足りなければ自分が転職して収入を増やす、こうして、生活できるように上手に調整しますよね。

これ、実は公的年金保険の話をしているのです。

 

田中:年金の話になると、僕もどうも敬遠してしまうのですが、このお話はシンプルでわかりやすいですね。

 

 

出口:つまり、年金はそもそもの仕組み上、破綻するはずがないのです。それなのに、年金が破綻すると思い込む人は、お金をためなきゃいけないとあせる、そして無理な貯金をする、あるいは、金融機関の口車に乗せられて、高い金融商品を買わされてしまう。そうすると結局、自分が気づかないうちに損をしている。

リテラシーをあげなければ、不安は消えないし、不安が消えなければ、いろんな商品を買わされてしまう。

 

田中:だまされてしまう人もいますね。

 

出口:これがごく当たり前のリテラシーの話です。

年金の話に戻って簡単に説明すると、

日本の公的年金保険は、34兆円ぐらいが勤労者の給与から天引きされていて、12兆円ぐらい国税が投入されています。

昔は3分の1だったんだけれども、基礎年金の2分の1を国税で賄うという法律改正が行われました。他にも細かいものがありますが、原則としてはこの2つが収入。

そして51兆円ぐらいが年金として支払われています。その差額分は、GPIFが運用している145兆円の過去のたまりでまかなっています。

さっきの例でいえば、節約は例えば高所得者には年金を支給しない。次に国庫負担は、現在、基礎年金の2分の1となっていますが、これを3分の2に上げてもいいわけですよね。

それでも足りなければ、年金保険料を上げればいい。

ヨーロッパだったら中学や高校で、年金の仕組みはこうですと教えます。

そして、こんなことが調整できないアホな政府だったら次回の総選挙で皆落とせばいいと教えるから、誰1人年金が破綻するという考えをする人がいないのです。

 

 

田中:年金が破綻すると考えてしまう人が増えると、不安になってお金をため込んで結局いつか自分が損してしまうと。だから出口さんが普段からおっしゃっている教育が大事なんですね。

 

出口:そうです、教育も大事ですが、こういう数字は、厚労省のホームページに書いてあるのだから、自分で考えて調べれば年金が破綻するなんてありえないことがすぐわかる。

公的年金の保険でいうと、原資は保険料と国税と年金積立金からなっているという知識を持っている人は多いと思うのですが、

それがこんな関係になっていて、いくらでも調整できるというような、全体を理解する力がリテラシー、すなわち教養というのかな。

知識というのは料理の材料であって、料理方法が考える力、つまり、知識があって考える力があれば、教養があると言ってもいいかもしれません。

 

 

田中:なるほど。私も個人事業なので年金については調べたことはありますが知識だけしかないですね。それでいうと、年金の教養は全くない。つまり、まずは知ってそのあと考えないと自分が損をするという話ですね。

出口さんは教養という言葉が嫌いともおっしゃっていましたがどういった意味でそう発言されていたんですか?

 

出口:品格とか教養という言葉は本が売りやすいだけですから(笑)まあそれはそれでいいんですが、普段の日常会話では気恥ずかしくて使わないでしょう。

 

知識と考える力をかけ算したものがリテラシー=教養と言ってもいいかもしれませんね。

 

 

 

 

 

田中:僕たちは日ごろからいろんなメディアに接しているから、情報リテラシーが大切と言われますよね。情報が正しく判断できたりできなかったりします。

リテラシーを身に着けていくために、すぐできるものってないと思うんですが。

NewsPicks編集長の佐々木さんは著書「リーダーの教養書」の中で、「ジャンクフードとしての知」と表現されていました。

 

 

出口:リテラシーは、常識を鵜呑みにせず「なぜ、なぜ、なぜ」と問い続けることで生まれてくるんじゃないでしょうか。その習慣の積み重ねでしかないと思います。

 

田中:わかっている人は多いと思うんですね、あえて逆のことをいうと、「なぜ」と問わなくても生きていけますよね。その風潮は特に強くなってきている気もします。

 

 

 

出口:生きていけますよ。生きていけるけれども、リテラシーが低いと、しょうもないものを買わされたり、選挙に行かないとしょうもないひとが政治家になって、結局、自分が不幸になってしまいます。

ブーメランのように自分に返ってくるわけで、わくわくする人生、楽しい生活を送りたくないのって話になりますよね。

 

田中: 自分に不幸として返ってくることを知らないことが問題だ、ということですね。

 

 

 

第二回:出来レースの選挙がまかり通る理由

 

 

そう考えると、好きなことを続けていくって大事で、社会では評価されていると思うんですけど、一方で、小さなコミュニティにとどまりすぎると他の世界を知らない、他のことへの想像力がなくなる人が増えて、偏った教養になってしまうのではとも思います。

 

出口:世界は広いのでそういうことはありますよね、若い世代は縮こまっている人が特に多いかも知れません。

それは仕方ないことですが、それってやっぱり知らないことが問題なんだと思います。

例えば、選挙についても、ヨーロッパの若者の投票率は7、8割。日本の若者は2割、3割、これは単純に選挙に対するリテラシーが低いからだと思います。投票にはいってますか?

 

田中:はい。

 

出口:どうしていかない人がいるのですか?

 

田中:投票にいっても変わらないという人もいるし、やっぱりめんどくさいという人が多い気がしますね。優先順位は、投票より友達とのご飯。

 

出口:めんどくさかったら、ご飯を食べながら投票できる「インターネット投票をやりましょう」という声をなんで上げないんですか?

 

田中:投票がめんどうなら声をあげるべきだと。

 

出口:そう。市民の権利なんだから。例えば恋人とおいしいものを食べている時に、投票ができたらいいじゃないですか(笑)

 

田中:それは賛否両論ありそうですが名案ですね(笑)友人同士でも声をかけあうことでその場でできますね。

インターネット投票は昔から必要といわれていますが、どうして進んでいかないですか?

 

出口:簡単にいえば、皆が投票に行かないと、既得権を持つ政治家しか通らないから。政治家本人たちにやる気がおこらないからですよ。(笑)

普通の選挙で投票率が50%ぐらいなら、後援会や大政党の支持がある人しか通らない。

選挙に出たい人が少ない一番の理由は、選挙に通らないからですよね。通る見込みがなければお金がかかるし、嫌でしょう。

投票率が70%くらいになったら後援会とか組織票の力の意味がなくなるんですよ。そうしたら当選する可能性が出てきてチャレンジしようと思うようになりますよね。

 

田中:気持ちの面でがらっと変わりますね。

 

出口:G7の中でみると、二世、三世議員(世襲議員)の比率が1割を超えている国はどこもないんですが、日本は5割を超えているんです。

 

田中:これも支持基盤や後援会、組織票によるものですね。これでは風通しが悪くなりますね。

 

出口:日本の喫煙率は、今二割もないんですが、国会議員の喫煙率は五割を超えているんです。2人に1人はタバコを吸っている組織が受動喫煙の法律を通すことに一所懸命になるはずがないじゃないですか。

 

田中:自分たちにとって損ですもんね。

 

出口:そう。彼らは大政党や後援会をつくっているわけですから、インターネット投票をやって投票率が上がったら困るわけですよ。

 

田中:そうとわかっていながらやっているんですかね。

 

出口:そうです。だって、昔、とある総理大臣が、「無党派層は家で寝ていてくれればいい」という趣旨の発言をしていました。それはとても正直な発言。

投票率が低ければ、大政党や後援会のある人が勝つに決まっているわけですね。出来レースだし、こんな美味しい話はないわけですよ。

 

田中:そういう構造を知っていれば、選挙に行く人は増えそうですね。

 

出口:そうそう。他にも選挙の投票率に関していえば、あなたは政治の時間に選挙をどう習いましたか?

 

田中:参議院と衆議院の定数を教えてもらって、テストのときにどっちがどっちかごっちゃになっていましたね。習ったというより、教科書に書いてあるよくらいの感覚ですかね。

 

出口:そんなの意味ないですよね(笑)ヨーロッパでは選挙はどうやって教えていると思いますか?

 

田中:模擬選挙ですか?

 

出口:もっと簡単です。選挙の事前予想をメディアが出します。その事前予想に賛成であれば、そのあととるべき行動は3つあります。

1投票に行ってその通り書く。

2棄権する。

3白票を出す。

全部結果は同じです。

事前予想に反対だったら、あなたには採るべき方法は1つしかありません。投票に行って、違う人の名前を書く以外に意思表示はできません、これが選挙です、以上おしまい。

 

田中:この話を聞くと、選挙に対するモラルというのかな、が根底から違いますね。

 

出口:そうです。これはけっこう深い話で、日本では大新聞でも、棄権が増えたから政治不信が増しているとか言っているでしょ、違うんですよ。棄権というのは、今の有力者に票をいれるのと同じなので、政治不信なはずがないと思います。

 

政治不信を表明するんだったら違う人の名前を書くしかない、という当たり前のことを新聞記者ですら知らないわけです。

 

田中:棄権という言い方をしていますが、投票に行かない人はそもそも信じる、信じない以前の話ですもんね。不信を表したいのであれば、投票にいくべきだ、と。

 

出口:こういうふうに教えてもらえれば、中学生、高校生は、「そうか、今の人でよければ、投票に行ってその通り書いてもいいし、棄権してもいいし、同じなんだね」と思うわけです。こういうように具体的に教えられたら、わかりやすいから投票に行く人が増えます。だからヨーロッパは投票率が8割になるんです。これは社会の成熟度とリテラシーの問題です。

 

田中:あえて選択肢や情報を多く複雑にすることで、読み解きにくくなるという話もありますが、今の話はシンプルなので、誰でも理解できますね。

 

出口:そうでしょう。それから、選挙については候補者のことがよくわからないとか、票を入れたい人がいないと新聞やネットには書かれていますよね。

これもヨーロッパでは、どう教えられているか、チャーチルの言葉は知っていますか?

 

田中:民主主義は最低の政治形態・・・ですか?

 

出口:そう、その前段の言葉が重要で、選挙に出たい人は自分も含めて立派な人なんていない。みんな変な人ばかり、目立ちたがり屋、金儲けをしたい人など不純な動機を持っている人しか選挙には出ないんだとチャーチルは言っています。

 

田中:今の人はそういう人ばかりではない気もしますが(笑)そういう前提で考えておいたほうがいいこともありそうですね。

 

出口:続けてチャーチルは、「選挙とは、変な人の中から、少しでもましな人を選ぶ『忍耐』のことをいう。だから民主主義は最低」。「ただし過去の王政や貴族政を除いては」と言っています。

 

田中:つまりチャーチルは、選挙は忍耐だから最低だけれど、他にいい形態がないからしょうがなくその制度を選んでいるんだと。

 

出口:こういう当たり前のことを中学や高校で教えたら、「ろくなひとがいないから選挙なんてばかばかしくていけない」などという考えがいかに愚かかということがすぐにわかりますよね。そういう人たちは、選挙に出る人は立派な人に違いないというありえない前提を置いているのです。

 

田中:立派な人たちで、何でもできるスーパーマンのように見えますが、国会議員の人たちも人間ですからね。そう見せなくてはいけない空気もなんだか苦しそうですが。人間なんだからもっと弱いところも見せてほしいとも思います(笑)

 

出口:チャーチルの言葉はファクトだけれども、そういう知識を持って自分のアタマで考えれば自分の取るべき行動が見えてきます。学校も新聞もこうしたことを教えない。だから世の中はよくならないという話ですよね。

 

第三回:だから政治は嫌われる

 

田中:投票率の話なんですが、カテゴリー分けやレッテル張りをするのがよくないと思っていて。

今、僕が感じているのは、「政治」というカテゴリーにわかれている。わけすぎていて、政治と聞くと「うっ」となってしまう人が少なからずいます。本来なら別に政治は社会を良くするためにあるただそれだけのものの気がするんです。その原因って、若い人もそうですが、「政治を知っている自分がかっこいい」というためのツールにすぎなくて、わざわざ難しい言葉を使ったりしている気がします。政治は頭の良い人だけがやるものだ、と。私たちは社会のために何をするかが第一で、政治はあくまでそのための手段ではないかと思うんです。

 

出口:まさにその通りです。そもそも政治って何ですか?

政治ってめちゃ簡単で、世界の共通項は、皆で払う税金をどうやって分けたら、みんながハッピーになるか、ということですよね。

みんな税金は払っていますよね。払っていたらできるだけ上手に使ってほしいとは思わないのですか?

 

田中:思いますね。

 

出口: まず選挙とは何か、民主主義とはどういう制度か、原理原則をきちんと学ぶことが先決です。

例えば、レストランに行って、お金を出してご飯を食べますよね、料理はレストランに任せると言って、まずいものが出てきたら平気ですか?

 

田中:嫌ですね、自分で選びたいですね。

 

出口:嫌でしょう。レストランで注文する時は、「オムライス食べたい」とか言いますよね。デパートに行って1万円出して、「どんな服でも着ますから売ってください」とか言う?言わないでしょう?サイズが合わないとか嫌でしょ。どうして税金には注文しないのですか?同じ話ですよね。僕は税金を払っているんだから、このように使ってほしいとか、この人に決めてほしくないとか、政治もこれと同じだと腹に落ちれば行動できるのですが、そこを曖昧にして考えないから、政治に対する興味がなくなっていく。だから政治を担っている人にとっては天国ですよね。

 

田中:投票率が上がらず、選ばれ続けますもんね。

 

出口: 政治も普通の消費行動と同じなんです。そこを若者がもっと主張すべきです。日常事、自分事として感じてもらうためには、発言していくしかないんです。言わなければ分からないから。

 

田中:政治に興味ないとか言っている人に限って、文句を言いますよね。

 

出口:そう(笑)

クレーム代わりに投票すればいい。投票に行かないと、批判と結びつかないですね、これがリテラシー。

 

田中:当たり前のように私たちは消費税払っていますからね。

 

出口:投票に行かないとか政治に興味ないと言っている人は、レストランでお金を払っているのに、何が出てきても文句を言わない人と一緒です(笑)

そんな人いないんだから、普通に行動すればいい、そういったことをプロセスを含めてきちっと教えることが大事。それが先進国です。

 

田中:わかっていないからこそ、分断していきますね。

 

出口:そう。みんなが分断されて好きなことをやっていてくれたら政治家は楽だから。

 

 

田中:いろんな人に聞いてしまうのですが、出口さんはリテラシーを高めたり、仕組みを変えるために、国会議員になるという手段は選ばないのですか?(笑)

実行者になることは違う側面で非常に大変だとは思いますが。

 

出口:僕は政治家には全く興味がないのです(笑)ただ市民のリテラシーをあげてほしいと思うから本を書いたり講演会をしたりしています。10人以上ならどこへでも行きます。

ぼくは古希になって孫が2人いるのですが、2人の顔を見るたびにこの子たちのために少しでも良い社会にしたいなと思って発信しています。

 

 

 

第四回:皆が一致していないのは当たり前の社会

 

 

田中:分断の話が出たので、いつも私が思っていることを伺います。沖縄に関するニュースでは、「沖縄」と「本土」という言い方をされていますよね。

沖縄の問題について聞きたいというわけではなく、沖縄の問題は日本や世界の縮図のような気がしていて、この分断は、沖縄と本土だけの話ではないと思っています。つまり社会構造は共通しているところがあるのではないでしょうか。

 

出口:沖縄問題の本質はなんだと思いますか?

 

田中:僕は日米関係をこれからどうしていくかの議論がされていないことかなと思っていますが。

 

出口:めちゃ簡単に言えば、安全保障って大事ですよね。夜はどうして安心して眠れるのですか?

おまわりさんもいるし法律もあるからですよね。

ドアを破ってどろぼうが来ないと思っているから安心して眠れるんですよね。

 

田中:安心って大事ですよね。

 

出口:日本はアメリカと同盟を結ぶことによって日本の国を守ってもらっています。そのために基地を提供しているんですよね。

そうであれば基地はどこにあるべきでしょうか。日本全体、均等にあるべきですよね。あるいは、人口比で考えて、首都圏にもっとあってもいいかもしれない。

 

アメリカに守ってもらっているんだったら、みんなが平等に基地を分担するべきじゃないですか?それだけの話です。歴史的経緯でそれが沖縄に集中しているんだから、沖縄の人の立場になって考えたら変だと思うでしょう。

 

田中:そうですよね、それが社会で言われている「差別意識」ですよね。シンプルです。

 

 

出口:日本人全員が利益を得ているのならみんなでコストを分担すべきです。この当たり前の話を、議論しないから沖縄の人が怒るんじゃないですか。

 

田中:今は基地の7割が沖縄ですもんね。

 

出口:どう考えたっておかしいですよね。すぐには少なくはならないとしても、沖縄から本土にちょっとずつ移してよというのは当たり前だと思いませんか?それを政治がきちんと受け止めて、実行するかしないかの話です。

 

 

田中:今も沖縄で抗議行動をし続けている人たちがいます。私も沖縄県知事選挙に行ってから、わけもなく沖縄に通い続けているんですが、「デモをする人」では言葉の主語が大きくて、辺野古を守りたい人、基地に反対する人、安倍政権を批判する人、もちろん全てを抱えている人もいます。一方では行き過ぎた行動をとっていると批判される人もいます。

 

それと同じではない点もあると思っているのですが、先日、都議会選挙で、安倍総理の「こんな人たち」発言が拡散された秋葉原の演説がありました。公的な人間として、拡散されることも予想しての演説ができていないところに隙を感じましたが、それよりも明らかに周りの聴衆たちに迷惑をかける横暴な行動をしている人たちを見て、なんだかなあと思ってしまいました。

その様子を見ずして、自分たちの都合の良い情報を垂れ流す影響力のある人たちにも違和感を感じたものですが、ちょっとこれは長くなるので、割愛します。

 

出口:総理大臣って誰のための総理大臣ですか?

 

田中:日本のためですね。

 

出口:そうですよね。日本にはいろんな意見があって、首相に賛成する人も反対する人も同じ日本の市民。

普通に考えれば、「私は総理大臣として民主的な手続きで選ばれたので、賛成する人の意見も反対する人の意見もよく聞いて、みんなのために良い政治を行うためにがんばります」というしかないわけです。

カッとされたんだろうけれど、リーダーはそれではいけないんです。すぐカッと頭に血がのぼる人は、人の上に立ってはいけません。

それって中学高校の運動部と一緒ですよね。(笑)

キャプテンなのに、カッとして、勝手にメンバーチェンジしたり、相手蹴飛ばしたりしたらだめですね(笑)

 

田中:本当にそうですね。そんな人がチームのキャプテンなら嫌ですもん(笑)

安倍さんのリーダーの資質の話はまた別の機会のお楽しみということで、デモ行為をどう見ていますか?私は役割分担ではありますが、他にもっと良い手段を探すべきではないかなと思うのですが。

 

出口:世の中、どこにでも変な人はいますからね(笑)

2-6-2の法則ですね。いつも一所懸命な人が2割、まあまあの人が6割、横向いている人が2割、これは全世界共通ですからね。

ただ、リーダーはその変な人のレベルに落ちてはいけないわけです。

同じレベルに立って、ヤジをとばすのはリーダーの役割ではありません。

 

 

田中:変な人がいるっていうことを社会の原則として認識しているだけで、少し寛容な気持ちになれそうな気もします。

 

出口:まあ認識というより、ファクトですね(笑)中学高校で部活はやっていましたか?

 

田中:はい、野球一筋でした。

 

出口:部活でも横向いているやつがいたでしょう(笑)

熱心なやつもいればサボるやつもいるのは、中学、高校の部活と一緒です。中学、高校でなにやってきたんやって話ですよね(笑)

リーダーの命令で、全員が「はい、頑張ります」という世界のほうがおかしい。それはヒトラーやスターリンの世界になってしまう。やりたい人が集まっている部活ですらそうなんだから、人間の社会なんて2-6-2が当たり前ですよね(笑)

 

 

田中:今そう指摘されると当たり前な話ですね。(笑)

私も含めて、言われると分かるけれど、認識していないというか、言語化されていないというか。

 

出口:言語化されていないのはまさにリテラシーの問題です。知識や経験は誰もがあるんです。それを結びつけて、つなげて考える力が乏しいのが問題です。部活と政治もつながっているんですよね。

 

田中:すいません(笑)

 

出口:言われればわかるでしょう?それが発信の重要性とか教育の話なんですよ。

 

田中:教えていただいたこと、誰かに話したくなりますね。

 

出口:そうそう。何も難しい話ではないんです。みんな必要な知識は持っているんです。

 

つまり、分断とかではなく、皆が一致していないのは当たり前の社会、人間は全員違うんだから。むしろ一人一人分断されている。分断されている人が集まって社会が成り立っている。

だからそこにルールを作ろうとか、いい政治をしてまとめようとか、そういった発想が生じるわけです。わくわくする社会を作ろうと思えば、みんながイニシアチブをもって社会に参画するしか今のところ方法はありません。

 

 

第五回:少数者しか世界を変えない

 

 

田中:分断と言っていることがそもそも違う、当たり前なんですね。

逆にみんなが同じ方向を向いていることはおかしい、そんなことあるはずないという意味では、ポピュリズムはどうなんですか。

 

 

出口:ポピュリズムは基本的には無知からきているんです。例えば、本屋さんで「隣の国はこんなに世界中の人から嫌われているけれど日本はこんなに好かれている」などのタイトルをみたことありませんか?

 

田中:嫌韓、嫌中とかですね。

 

出口:たくさんありますよね。

これと同じことを学校のクラスで「私はこんなにクラスの人から好かれているけれど、私の横に座っているこの人はクラス中から嫌われています」と言ったらどうなりますか?

 

田中:ひどいを通り越して、ひきますね。(笑)

 

出口:ひくでしょう?(笑)それと同じ話ですよね。

好きでも嫌いでもさ、クラスで物理的に横に座っている人は、必ずしも合う人ばかりではありません。

けれど、席替えでそうなるときもある。あまり好きじゃない人が横の席になったらどうしますか?

 

田中:表面上で付き合いますね。

 

出口:そうですよね、そうしないと毎日がしんどいですよね(笑)

 

田中:自分が嫌ですよね。

 

出口:例え嫌いな人であっても挨拶をして、できるだけ波風をたてないようにする、それが普通です。

それなのにわざわざ「私はクラス中から慕われているのに横の人は嫌われている」と言って、何の得になるのかという話です。

そう言われるとみんなわかるんだけれど、言われないとすぐに隣のやつはけしからんやつだなと思ってしまう。

だからポピュリズムの敵は無知なんです。知らない、考えないは敵。

 

田中:小池さんがポピュリズムと言われているのを目にしたことがあります。あれはポピュリズムなんですか?

 

出口:小池さんの選挙はとても上手だったけれど、あれはポピュリズムなどというより、選挙の原則から考えて、2択、3択ある選択肢からどちらを選ぶかという話です。

都議選でいえば、安倍さんと小池さんとどちらがマシですか?それだけの話ではなかったのでしょうか。

 

田中:まさにチャーチルの言葉ですね。

 

出口:アメリカを見ていると、民主主義の仕組みが機能している気がします。

例えば、トランプさんが大統領令を出しても、すぐに裁判所が無効だと言うわけです。

ファシズムや全体主義というのは、仕組みの問題もありますね。

 

田中:その話で浮かんだことが、多数決が絶対的に正しいわけではなく、少数の意見が正しいこともあるということです。

 

出口:少数者しか世界を変えないというのは、「社会心理学講義」という本に書いてあります。

本を読むのが好きならおススメです。少数者しか世界を変えません。なんでかわかりますか?

例えば、東日本大震災をきっかけに地域おこしが盛んになりましたが、地域おこしのキーワードって知っていますか?

 

田中:若者、ばかもの、よそもの。

 

出口:そう、どうしてその人たちが地域おこしができるのかわかりますか?

 

田中:その土地について何も知らないからですかね。

 

出口:そこに住んでいる地域の人々の常識を知らないので、見たこと、聞いたことすべて「すごいじゃん」と思うわけです。

例えば僕は東京に住んでいますが、新しい東京タワーにはまだ行ったことがない。遠くから見えるけれど忙しいし、いつでも行けると思っているから良さがわからないのです。

 

田中:僕も東京バナナ食べません。(笑)

 

出口: でも、地方からきたら「高い、すごい、面白い」となるんですよね。

よそものは東京タワーの素晴らしさがわかる。ばかものは社会的常識がないからわかる。

若者は社会経験がないからわかる。

劇作家・バーナード・ショーに次のような言葉があります。

「賢い人はすぐに空気を読んでしまい、その場ではどういうことを言えばいいかわかってしまうから、世界に合わせてしまう」

賢い人は何も世界を変えないのです。

ばか者は空気を読まず、自分が正しいと思うことを言い続けるから世界を変える、そのメカニズムが「社会心理学講義」には書いてあります。

 

田中:読んでみます。日本で出口さんがそれを象徴していると思う人はいますか?

 

出口:地域おこしをやっている人はみんなそうじゃないですか?

若者には未来に希望が持てるような人がたくさんいると思います。ハーバードビジネスレビューのunder40 で選ばれた禮彩香(にれいあやか)さんのような人。中学生で会社をつくって事業をやっている人ですね。

Under40の中で、ただ1人の10代でした。

 

 

第六回:格差は悪くない。大事なのは、はしごがかかっているかどうか

 

田中:これまでの話を踏まえて、格差ってそもそも悪い話じゃないよね。という話をもう少し突っ込んで聞きたいです。

 

出口:格差って現実の世界ではどこにでもあるじゃないですか。

 

田中:分断と同じで格差に対してもみんな悪いイメージがありますよね。

 

出口:僕は、昔陸上をやっていましたが、100メートル競争では格差は絶対生まれる。

努力しても記録はそれほど伸びません。生まれつきの要素の方が大きい。

人間の持っている能力はみんな違うわけですが、それはよくできていて、例えば足が速くても、勉強ができるとは限らない。

みんなそれぞれとがっていて、個性があるだけなのです。

 

田中:格差って個性が輝いていると言い換えられますね。

 

出口:その通り、そうなんですよ。顔が違うのと一緒です。格差がある社会は当たり前。

ただ問題は、社会的地位の中での格差です。あるいは収入の格差と言ってもいいです。普通の格差は、むしろがんばろうという励みになります。

 

田中:いいライバルがいることはいいことですよね。

 

出口:加えてはしごがかかっていればインセンティブになるんです。

 

田中:はしごがかかっていれば?

 

出口:アッパー(上)とローワー(下)の間に、はしごがかかっていれば、下の人は登れば上の人に届くと思うから頑張れるのです。

 

田中:希望は何よりも力になりますからね。

 

出口:そう。これがアメリカンドリームの原点です。しかし、はしごがなくなれば絶望的になる。やけになります。

 

田中:その結果、テロなどが起きるわけですね。

 

出口:その通り。格差が悪いのではなく、格差の間にはしごがかかっていて流動的であれば人は頑張れるのです。

 

 

田中:風通しの良い会社が成果を出すという話にもつながってくるわけですね。流動性。

 

出口:その通り。格差を上手に使えば発展のエネルギーになるのです。

 

田中:いやー、いい言葉ですね。

 

出口:「こんなに格差があってひどい」という本を書いている人は、だいたいが変な人かもしれません(笑)

 

田中:(笑)

 

出口:大事なことは、流動性があってハシゴがかかっている社会の仕組みを上手につくれるかどうか。

なんで僕が陸上をやっていたかというと、小学校ではリレーで抜けば女生徒にモテるから。(笑)

これは、格差がエネルギーになっているんです。だから一所懸命練習した。健全なエネルギーですね。

 

田中:ただそこが不健全なエネルギーになると、人への憎悪につながる。

 

出口:そうです。分断はどこの社会にもある。分断のない社会は歴史上どこにもありません。

けれど、うまくいった社会や長く続いた王朝には、はしごがかかっていました。

 

一つ具体例を出すと、

「義務教育は無償」という原則がある。無償というのは教育費だけではなく、給食費も含んでいるはずです。みんなで食べることも教育の一環だから。

ところが、例えばシングルマザーの子どもで給食費が払えないケースがあるわけです。

その子どもは、給食の時間になると、ご飯を食べないで1人で校庭で遊んでいるわけですよ。そんな生活をしていて健全に育つわけがない。

義務教育が無償というなら、給食費も修学旅行費も全部含めて無償にしなければ社会の分断になる。これははしごを拒否していますね。

 

田中:はしごにしているつもりが、はしごにならず分断になっていますね。

 

出口:そこを重点的に考えないといけないんです。全体を整合的に考える能力が大事で、一部分しか見ていないことは危険です。

 

田中:これまで話してきて、テーマとしてはバラバラですけど全てがつながった感覚に陥っています(笑)

 

出口:でしょう(笑)つながらない考え方は、思いつきにそれぞれついていっているだけで、意味がないんですよ。

全体としての整合性が大切だと教えてもらったのは、英国大使館に勤めていた英国人です。昔の話ですがその人に、日本のコマーシャルはクレイジーだと言われた。最初は何がクレイジーなのか、わけがわからなかった。

 

そのCM は日本財団を創設した笹川良一さんがつくったもので、「戸締まり用心火の用心」いうCMと、「人類一家皆兄弟」というCMだったのです。僕はそのコマーシャルを両方みたことがあって、何も感じなかった。

けれど僕の友人は、このコマーシャルはクレイジーだというんです。

 

田中:なんでですか。

 

出口:彼はこう説明してくれました。

「世界は一家人類皆兄弟」であれば、戸締まりなんていらない、と。

 

田中:確かに(笑)

 

出口:どちらかが本音でどちらかが建前であるCMで、その矛盾に気づかない日本人はクレイジーだと。

このCMを平気で流しているテレビ局もおかしいと。その時、初めて僕も気がつきました。僕は何も考えないで見ていたから気づかなかったんだ、と。

 

第七回:ネガティブ・ケイパビリティ「がまんできない大人たち」

 

田中 これまでの話を踏まえて、どうしても聞きたいことがあります。

最近「ネガティブ・ケイパビリティ」を考察している本を読みました。

その本の内容は、今の社会や人間をよく表していると感じたんです。

それは 「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」 であり、「何かをして問題解決をする能力ではなく、そういうことをしない能力が求められる」と。

そしてシェイクスピアは高いネガティブ・ケイパビリティをもっていた。

この能力こそが、対象の本質に深く迫る方法であり、 相手が人間なら、相手を本当に思いやる共感に至る手立てだと、 論文の著者は結論づけていました。

宙ぶらりんの状態を回避せず、 耐え抜く能力は学校教育では教えられないものです。

この能力を学校や社会で評価していくべきだと。

出口 それは要するに「我慢する力」ってことですか。

田中 そうです。本の中では「踏ん張る力」と表現されています。

それがないと、怒りの感情をすぐに誰かに対して発散してしまう。 まさに今の社会に近いのではないかと。
出口 これも結局、子どものときの教育につながるのですが、イングランドの幼稚園では入園したら次のように教えます。 まずみんなを対面させる。

「相手をよく見てごらん」と。 そして「同じか違うか言ってごらん」と。 皆違います。

それをクラスの全員と何回も繰り返します。

すると、「世界はみんな違う個性で成り立っている」ということが腹落ちするわけです。

みんなが違うということがわかったら、 先生は次に「じゃあ中身はどう思うか」と聞きます。

考えていることや感じ方は一緒か違うか聞く。 ほとんどの生徒は、外も違ったら中身も違うと答える。

そしたら、次に教えることは2つしかない。

1つめは「言わなければ分からない」ということ。 だから忖度することなんてありえない。

忖度というのは相手もきっと同じように考えていると思うから成り立つ話なので。

田中 そういう概念はそもそも生まれないですね。 言わなければ相手に伝わらないと。
出口 もう一つは「みんな違うんだから、 切符を買うときは並ばないといけない」、つまり秩序を教える。我慢することを教えるのです。
田中 ルールを守ることですね。
出口 みんなが同じなら、秩序なんていらない。

みんなが違うということは好き勝手なことをそれぞれがやるのだから、切符を買うときには来た順番に並ばなければ混乱するという話です。

田中 インドではまだまだですね(笑)
出口 そこで人間社会では並ばなければならないということを教えるのです。

これは英語で言うと「queue」。 幼稚園から徹底的に考える力を鍛える仕組みになっていますよね。

田中 いやあ、すごい。
出口 ヨーロッパの共通一次試験の問題を知っていますか?
田中 論文ですか?
出口 1つの問題を選んで4時間で書くのですが、今年の入試問題の1つは「アートは美しくある必要があるか?」という質問でした。
田中 おもしろい。
出口 これが大学に入るためのセンター試験です。しんどいでしょう。

あるいは「物事を知るには観察だけで十分か」という質問が出る。

この答えを文章で書くのはなかなか難しい。 これがフランスのバカロレアという有名な試験です。
田中 採点する側も大変ですよね。
出口 そう(笑)けれど、教育ってそういうことを教えることですよね、進んだ社会をつくるには、そういうことに努力を惜しまないことが必要なわけで。

日本のセンター試験とは違いますね。
田中 驚くほど違いますね。文科省の人は知っていますかね。(笑)
出口 さすがに知っていると思いますね(笑)

そういうことを知っていれば、日本とは全然違うとわかる。

知って、考えれば、いろいろヒントは得られる。

知っていたほうが人生は楽しいですし、無駄なことをしなくてすむようになります。

田中 なるほど、「人は皆、違う」なんてことは誰でもわかっていますが、教育によって腹落ちしていないといけないわけですね。

 

第八回:ネガティブ・ケイパビリティ「がまんできない大人たち」

 

田中 最後の質問なんですが、ご著書である「直球勝負」を読みました。

出口さんは60歳からライフネットを創業され、これまでいろんな人と信頼関係を築かれてきたと思います。

出口さんがどのように信頼を積み重ねてきたのかを教えてください。

出口 そんなの運だと思いませんか?(笑)

田中 運ですか(笑)話が終わってしまいましたね(笑)

例えば、手紙を書くとかあるわけじゃないですか。

出口 しょうもないことをいえば、会ったあとに墨筆で手紙が来たら、 「おっ」と思うじゃないですか。

けれど、そんな一瞬の出来事で、 その人とまた会おうかと思うのは別の話。

この間、初めて会った人がいたのですが、話しがはずまなかった。

その人から達筆で「とても勉強になりました。これからもよろしく付き合って下さい」と手紙がきたんです。

でも、正直なところまた会いたいとは思いませんでした。

合コンと一緒です。(笑)

手が汚れた時に相手がハンカチを出してくれたら、 一瞬「気が利くな」と思うかもしれません。

でも、2時間、3時間と話してみて、タイプじゃなければ、意味がない(笑)

テクニックはいろいろあると思いますが、本人に魅力がなければまた会おうとかは思わないし、人間関係は続きません。

何もしなくても、本人がやろうとしていること、実現したいと思っている夢に共感する人がいれば人間関係はできます。

田中 つい即効性のあるものを探したがりますよね。 そういうビジネス本も増えています。

出口 そんなのあるはずがないと思います。 結局はリテラシーの低さです。

野球も上手くなる即効性なんてないですよね?世の中も同じです。

こういうことをやったらあっというまに人間関係が良くなることなんてあるはずがない。

けれどそういうアホな本が売れるのです。

田中 アホな本が売れることはしょうがないんですかね・・・。

出口 英語のコーナーに行くと、 こうやったら英語が上手くなるって本ばかりありますよね。

英語はどうやったらうまくなるか。

例えば、NHKのラジオ講座を毎日聞いてコツコツ勉強するしかないですよね。

本屋に行って、「毎日コツコツ勉強しなければ英語は上手くならないよ」

などという本を買いたいですか?(笑)

そんなことわかっているでしょう?(笑)

それが人間のクセなので、とんでも本しか売れないのです。
田中 仕方ないのですね。

出口 けれど、コツコツやることが大切だと分かっていれば、 トンデモ本なんて誰も買わない。

田中 売れるから出版社は本を出しますよね。

出口 でもそれは長続きしません。 ベストセラーで10年後に残っている本はほとんどありません。

田中 それでいうと、英治出版が思いつきました。

「絶版しない」、つまり長く残り続ける本をつくるという理念が本当に好きです。

出口 僕も社長の原田さんをよく知っていますが、本当に立派な人ですね。

田中 そういった出版社が大多数になるには、応援するしかないですね。

出口 そうですね、行動するしか世界は変わらないのです。

田中 物事がシンプルにつながりました。発信がんばります(笑)ありがとうございました。

ロングインタビューを終えて

出口さんの優しく、シンプルに紡がれた言葉たちが、私の社会に対する疑問をいつのまにか消してくれたからでしょうか。

インタビューを終えて、ライフネット生命の会社を出ると、広がる青空も相まって非常にいい気持ちがしました。

言葉が背中をそっと押してくれたような。

こんなつたない例えでいささか伝わるか不安ですが、この文章を読んでくださった皆さんなら、なんとなくわかってくれるのではないかと、出口さんの言葉に頼り切っている私です。

「物事をいかにかっこよく見せようとしているか」

自分の言動がそうだったのではないだろうかとふと思いました。

困難な課題について、様々な手段で、そしてあらゆる角度から物事を考えることも大切です。

しかし、時に思い切ってシンプルに考えること、それは、やはり積み上げてきた知識と考えてきた経験が導く。

シンプルなそのたった一言が、相手を「なるほど」とうならせる。

相手を傷つけるためでもなく、説得するためでもなく、相手を心地よく理解できるようなボールを的確に投げ込まれた私は、その心地よさに時間が過ぎても質問を重ねてしまいました。

正直、何時間でも、そのボールをキャッチしていたい、そんな時間でした。

教養というものが、この現代の社会の息苦しさ、いわゆる私の中の閉塞感を打破するカギになるのではないか、その仮説は確信になった。

などと言えるにはまだ早いような気がします。

けれど、複雑に思える教養を学ぶことによって、より物事をシンプルに理解し、シンプルに伝えることができる、これこそ、学び続ける意味であると、教えてもらいました。

この「知識」を昇華させるには、実践することに他なりません。

出口さんの願いの一端を担えているか不安ですが、少しでもこのインタビューが誰かの背中を押せたなら嬉しいです。

 

 

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