池上彰(ジャーナリスト):田中将介が聴く

池上彰

目次

・「主役はニュース。私はニュースを解説するのが仕事だからプライベートは出さない。ー池上彰はAIかー」

・「若い人は9・11、同時多発テロを知らない」ということを「大人が知らない」ー池上彰が現代史にこだわるワケー

・「ゴールデンタイムにイランの大統領選挙」から始まったー池上彰が民放で特番を担当するまでー

・池上彰と考える「国際ニュースに興味ない」という先入観

・伝えるためには「ストーリーをつくれ」ー池上彰流「カンボジア」の伝え方ー

・アメリカ大統領トランプ氏の一言に池上彰が絶賛したワケー政治家こそ政策や政党を変えるべき?ー

・池上彰と考える「複雑なことを複雑と伝える大切さ」ー子ども騙しをしてはいけない。右翼や左翼というレッテル貼りの無意味さ

 ・「だからマスゴミは」はまかり通るワケー「今は記者にとって辛い時代だな」ージャーナリストが今後生き残るためのヒントを考える

 

 

まえがき

田中 池上さん、今日はよろしくお願いします。

まず簡単になんですが、

どうして池上さんにインタビューをしたかったかというのをお話させてください。

 

池上 はい。

 

田中 僕は個人の関心と社会での意義をつなげたいと思っています。どういうことかというと、社会のことを考える人が増えてほしい、あるいは、立場や考え方の違った人に対して、想像力をもって理解しようとする人が増えてほしいというシンプルなことなんですが。

 

池上 なるほど。

 

田中 池上さんも「ノイズ」に触れることによって、自分の新しい興味関心に目覚める、個性を形成する上で大事な要素になるとおっしゃっていますが、

この「ノイズ」が入りにくくなっていることが問題だと思っていて。

どうしてかというと、一つの理由としては、大人たちの批判が恐くて動きたくても動けない、失敗が許されない社会だからです。知識や経験もなく未熟な若者は、本来なら失敗を重ねることによって、だんだんと大きくなっていくのに。

自分が出合えない情報に接することで、今生きている世界が彩るのに、自分の世界がどんどん狭まっている、そしてそのことに、気づかなくなることがこわいんです。

 

池上 はい。

 

田中 この不安は、僕がジャーナリストになりたいと思った原点にもつながるのでお話させてください。

僕は、一年間ほど子どもが売られてしまう問題を解決しようという国際NGOでインターンをしていました。そういった社会の闇を知りたくて、インドに行き、現地のNGOスタッフたちとともに、売春地帯に行ったんです。

その一室で、子どもたちが皆で勉強したり、遊んだりしていました。

しかし、その子どもたちは、どこの誰かもわからないお客さんである男性と、母親である売春婦の間の子どもです。

女性の人生をめちゃくちゃにしている人たちがいて、同じ男性としてどうなんだ、と問われている気がしました。

さらに哀しかったのは、そういった問題に対して、日本の人たちから「男と女の問題は昔からあることだし、そういったことが起きるのは当たり前だから仕方ないよね」という言葉しか返ってこなかったことなんです。

 

池上 うん、うん、わかるよ。

 

田中 その「当たり前のこと」が、もし自分だったらと思うと、すごく嫌な気分になったし、いつ自分がそういう立場になるかわからないわけで。

ただニュースにはならないですよね。当たり前のことだから。

シリアでも人がどんどん亡くなっていますが、まるでベルトコンベアのように情報が流れていきます。それが嫌で、ストックされた情報をつくりたいんです。

メディアの人間は、自分でニュースとして問題を取り上げることができる反面、「伝えて何になるんだ」という葛藤も抱えざるを得ません。そういう人たち、まさに自分なんですが(笑)へのヒントを頂けたらなと思い、池上さんにインタビューのお願いをしました。

 

池上 なるほど。よろしく。

 

 

第一回 「主役はニュース。私はニュースを解説するのが仕事だからプライベートは出さない。ー池上彰はAIかー」

田中 まず早速なんですが、僕の個人的な目標は、いかに池上さんが「人間らしいか」ということを伝えることです。(笑)

G7伊勢志摩サミットなどでこれまでお会いして、感情の表現が本当に豊かな人で人間らしさを感じるんです。それこそ普段のテレビ番組では見られない一面です。

しかし、「ニュースや世界のことを何でも知っている天才」というイメージがあるので、僕はずっと池上さんはこの世の中に存在しないもの、ロボット、人工知能だと思っていて。(笑)

 

池上 そんなわけないじゃないですか。生身の人間ですよ〜。(笑)

 

田中 僕はその生身の人間らしさであることを皆に知ってもらいたくて。

 

池上 うん。

 

田中 どうしてかというと、今の社会はSNSであらゆるものが目に入るから、皆、自分自身に嘘をついて、強がって生きているんです。

「おれ、こんなすごいことやっているんだぜ」ってでも、それが苦しくなってくる。そこで必要なのが、さらけだす力なんですが、こわくてできない。

社会の中の「私」を自分で定義してしまって、ぶれることができない。

 

池上 うん、なるほど。

 

田中 多様な面を見せられたらいいのに、「この人はこうでなければいけない」という他人が思い描く像の通りに生きようとするから、生きづらい思いをする。

なんとかその人の期待に応えたいって。

皆から期待されている「池上彰」として演じることは辛くないですか?

 

池上 いや、そんなことないよ。

ちょっと言い方に語弊があるけど、俺はプライベートを売り物にしたくないんだよね。

なぜかというと、主役はニュースだと思っているから。

 

毎日放送の「情熱大陸」という番組がありますね。TBS系列で放送されていますが。この番組は1人を特集するでしょ。これまでに3回、出演を断っています。

 

田中 えー。そうなんですね。また誘われても出演はしないんですか?

 

池上 うん。

「徹子の部屋」は2回断っています(笑)

 

田中 初めて聞きました。おもしろい(笑)

 

池上 主役はニュースであって、私はニュースを解説するのが仕事です。

自分が主役になってはいけません。

 

田中 ニュース解説はやりたくてやっているんですか?

 

 

池上 うーん(笑)まあ、結果的にそうなっちゃっているけど、実際にやってみたら楽しかったという感じかな。

 

田中 なるほど。池上さんがジャーナリストを志した理由は、本多勝一さんという朝日新聞の記者が書いた『戦場の村』だったんですよね。

 

池上 うん、それもあるけど、さらに前があるんだ。

小学校6年生のときに、朝日新聞社から出版されていた『続 地方記者』という本を小遣いで買った。

この本は、新聞社の地方記者がどんな取材活動をしているかを追ったドキュメンタリーだったんだ。

 

田中 おー。

 

池上 「地方記者」という本がすでに出ていたから、私が手に取ったのは続編なんだな(笑)。その本を読んで、「地方で働く記者っておもしろいな、将来記者になりたいな」と思った。

 

田中 その本のどこに魅力を感じたんですか?

 

池上 「他の人が知らないことをいち早く伝える」というところかな。

ライバルの新聞社と競い合って、特ダネを抜いたり抜かれたり、あるいは警察より先に殺人犯に行き当たって自首を勧めたり。

「取材力があると、こういうことができるんだ」と思ったんだ。

当時、民放はニュースを出していなかった。

NHKのニュースもごくわずかしかなく、ニュースを扱うのは新聞記者だった。

そして、高校生のときに、本多勝一のベトナム戦争を描いた「戦争の村」を読んで、「記者ってこういう仕事もあるのか」と思ったんだよね。

 

田中 僕も本多さんのルポルタージュを読んで、ドキドキしました。

いわゆるノンフィクションと呼ばれるこういった本というのは、自分の葛藤や弱さも文章にのせていますよね。私はそこが好きなんですが、

池上さんはニュースを解説する本が多く、ルポ、ノンフィクションの本を出されていない印象を受けます。

先ほど、池上さんは「主役はニュースで、私の仕事はニュースの解説」とおっしゃっていましたが、

本多さんの本を読んで、自分の意見や、心の葛藤を書きたいとは思わなかったんですか?

 

池上 そうだね。ルポルタージュって、どこかにその人の視点が出てくるわけだよね。

実は私もやりたいと思ったから、今、朝日新聞で月一回、ルポの仕事を引き受けた。

平昌(ピョンチャン)オリンピックに向けてのルポを新聞1ページ分書いています。(池上彰が歩く韓国 to 平昌:

http://www.asahi.com/articles/DA3S13065450.html)

駐日韓国大使や、大韓民国民団団長にインタビューをしているよ。

ただルポをやりたいという思いはあるけれど、ニュース解説をする、あるいは、現場に行って取材する仕事が多いね。

 

田中 これからはルポもやっていきたいんですね。

 

池上 NHKを辞めたのは、自分で取材をして、本を書きたかったからなんだよね。

だから中東をはじめ、世界の各地に行って取材をしている。ただそれは、ルポというよりは現代史の本を書きたかったんだよね。

 

田中 あー、そっちなんですね。どうして現代史なんですか?

 

池上 今の若者たち、いや、若者だけじゃないな、日本の人たちが現代史を知らないからなんだよ。

 

田中 現代史を知らない?

 

 

第二回:「若い人は9・11、同時多発テロを知らない」ということを「大人が知らない」ー池上彰が現代史にこだわるワケー

 

池上 そう。高校までの授業は、日本史も世界史も第二次世界大戦で終わってしまい、それ以降は何も教えていないことが多いからだね。

例えば、大人たちは2001年9月11日に、世界貿易センタービルに飛行機が突っ込む瞬間をテレビの生中継で見ているわけだ。

だから9・11は皆が知っていることだと思い込んでいる。

しかし、あの出来事は17年前のこと。つまり、今の大学生は生まれたばっかりで物心ついていないわけだよね。

 

田中 そうですね、僕も9歳、なにか世間で大変なことが起こっているのかなという印象しかないですね。

 

池上 そう、今の若い人は2001年の同時多発テロを知らない。

そして、「若い人が知らない」ということを「大人が」知らない。

皆が知っていることを前提に大人が話をすると、若い人が話についてこられない。

 

田中 なるほど、これが「現代史がすっぽり抜け落ちてしまっている」ということなんですね。

 

池上 そう。

つまり「今の若者たちがいつ生まれ、何を知らないのか」ということに気がつけるかどうかが大事。

 

田中 何を知らないのか、に気がつくこと・・・。なるほど。

 

池上 さらにいえば、東日本大震災は2011年に起きたから7年前のことでしょう、

今の高校生が10歳くらいということになるわけだね。

すると、東日本大震災が起きたときに物心ついていない、リアルタイムで知らない人が大人になってきたわけだ。このことに皆、気がついていないんだな。

 

田中 本当にそうですよね。僕もさすがに3・11は皆知っているだろうと思っていましたが、先日新聞記事を読んで驚いたことがありました。

甲子園に出場する高校球児の特集記事だったんですが、「幼い頃に被災した子が高校球児になって頑張っている」と書かれていて、

さらに「震災当時、8歳だった」と。はっとしました。

物心ついてない人がもう高校生、そして甲子園球児なのかと驚きましたね。

 

池上 そうそう。

 

田中 池上さんは、NHKをやめてフリーになったわけです。それは、「ニッチ産業を見つけたぞ」ということですね。

「他の人はやっていなくて私にしかできないこと、それはわかりやすくニュースを説明すること」。

この戦略は見事にヒットされました。

いつも、ここをさらっとおっしゃっていますが、そのニーズを見極めるまでのプロセスがあると思っています。すぐに浮かんだものではないですよね?

葛藤を含めて、具体的に教えて頂けますか?

個人でビジネスチャンスを見つけたいという人のヒントになるのではないかと。

 

池上 きっかけは台湾での出来事だったんだよね。台湾の李登輝総統が、国民によって総統を選ぶ、直接選挙を初めて導入したときのこと。

それまで総統というのは、中華民国の中での最高機関に位置づけられていた「国民大会」という全く別の機構が選んでいたんだ。つまり、間接的に選ばれていた。

それを、台湾の住民が自分たちのトップを初めて選挙で選ぶことになった。

これに対して、中国がものすごい反発をしたわけだ。

なぜかといえば、台湾が独立するんじゃないかと思ったからだ。

そして、中国は、台湾の周辺で軍事演習を始めた。台湾の沖合にミサイルを発射するわけだ。

 

田中 えー、恐ろしい。知りませんでした・・・。

 

池上 そう。この話をNHKの「こどもニュース」で取り上げたときに、番組を作っていたスタッフが「なんで中国と台湾は仲悪いんですか」と私に聞くんだよ。

愕然としたね。

「お前、大人になって、しかもNHKの職員になって、そんなことも知らないのか」って。

 

ちょうどその頃、朝日新聞のベテラン記者が書いた記事を読んだんだ。「最近入社した若手の記者が、なんで中国と台湾は仲が悪いんですかと聞いてきて驚いた」と。

「あ、同じなんだ」と思ったわけだ。記者でも知らないなら、一般の人はもっと知らないよね。

そして、なぜ中国と台湾の仲は悪いのかということを皆知りたいことがわかった。

 

田中 すごい偶然ですね。そこにニーズを見つけたと。

 

池上 そう。それで、知り合いの編集者に『そうだったのか!現代史』という本を書きたいんです」と言ったら編集者に「は?なんですかそれは」と言われました。コンセプトがわからなかったんだな。

だから、こう説得したんだ。

「今の若者はベトナム戦争も朝鮮戦争も知りません。韓国はまだ北朝鮮と休戦の段階で戦争は終わってない、ということも知らないんです」

そしたら、その編集者も「えーっ」と驚くわけだ。

ということで、題名から決まって、本を出版しました。

そしたら売れてしまった。(笑)

 

田中 ははは(笑)どこの出版社ですか?

 

池上 現在は集英社文庫になっています。

当時はとても分厚い本で1,700円でした。

 

田中 当時でその価格で売れるってすごい・・・。昔、本はもっと安かったですもんね。

 

池上 そうなんだよ。だから出版界では衝撃だったみたい。

この本が売れたもんだから、part2を出して、そのあと『そうだったのか!日本現代史』、『そうだったのか!アメリカ』、『そうだったのか!朝鮮半島』と続いていくわけです。

 

「こどもニュース」でも、そのときの大きなニュースを、歴史をさかのぼって解説していた。

そういう番組はなかったし、そもそもテレビのニュースをわかりやすく解説するという番組もなかった。

そこで「あ、こういう仕事があるんじゃないか」と思ったわけだ。

 

田中 これが池上さんの生存戦略。

 

第三回:「ゴールデンタイムにイランの大統領選挙」から始まったー池上彰が民放で特番を担当するまでー

 

池上 それで、NHKを辞めて、さっそく中東に取材に行ったりして本を書いていたら、民放から話があって、テレビに出ることになった。最初はコメンテーターだった。

 

田中 それは本が出たあとに声がかかったんですか?

 

池上 それはNHKをやめてからだね。NHKにいるあいだに本は出ているから。

 

民放のスタッフは私が本を書いたことすら知らなかったから。(笑)

ただ、「こどもニュース」は見ていたから私がNHKを辞めたのを知って、「出ませんか」となった。

 

田中 なるほど、最初に声がかかったレギュラー番組はどんな番組だったんですか?

 

池上 テレビ朝日で「学べるニュースショー」という番組を始めたいと言われた。

この番組は、過去に、大きな災害や事件が起きたときに、人々がどう生き延びてきたかを再現ドラマにして、それについてスタジオでコメントするというものだった。

 

それまでいろんな番組で「キャスターになりませんか?」という話があったんだけれど、引き受けてしまったら、海外取材ができずに困るからレギュラーは断っていた。

ただ、このテレビ朝日の番組は、事前の収録で、スタジオでVTRを見てコメントするだけ。しかもスタッフから「海外取材に行くときは、番組を休んでいただいて結構です」と言われたので、「あっこれならいいか」と初めてレギュラーを受けた。

ところが、過去に人々がどう生き延びていたかという話はそんなにあるわけじゃないので、すぐにネタが切れて、どんどん視聴率が下がってきた。

そしたらペット大集合とか、グルメ特集とかが始まったの。

 

田中 ん?他の番組で、ですか?

 

池上 いや、その番組の中でやったんだ。事件がなくなっちゃったから。

「あれ?私はニュースを解説する仕事だったから受けたのに、ペットやグルメだったら私が出る必要ないじゃないか」と思って、番組を辞めさせてもらいました。

そしたら、テレ朝の偉い人が、「池上を戻せ。ニュースの解説番組にすればいいじゃないか」と言ったらしく、スタッフが「池上さん戻ってきてください。ニュースをやりますから」と言ってきた。

「本当にニュースをやるのか?」と聞いたら、「やります」と。

ちょうどそのとき、イランの大統領選挙があって、アフマディネジャドという大統領が再選を果たしたことに対して選挙に不正があったとイランの学生たちが立ち上がって流血の惨事になっていた。

だから、「じゃあイランの大統領選挙をやろう」と言ったら、ニュースをやりましょうと言っていた連中が、ひくわけだよ。

「え?ゴールデンタイムに・・・?イランの大統領選挙なんか誰も関心ありません」と言うわけだ。

 

そこで、私はスタッフにこう言ったの。

「NHKの夜7時のニュースは、毎日イラン大統領選挙の混乱から入っているよね。ただ、「イランが混乱している」というニュースは放送しているけれど、

イランがどういう国か全く説明していないだろ?

実はイランは、大統領の上に最高指導者がいて、国民は大統領を選べるけど、最高指導者は選べないんだよ」って。

 

田中 へえ。知らなかった。確かにニュースだけ見ても「イランが混乱しているんだ」で終わってしまいます。

 

池上 そんな仕組みは誰も知らないよね。

その仕組みを説明すれば皆見てくれるとスタッフを説得したら、

「じゃあやりましょう」ということになった。

 

田中 なるほど、よく説得できましたね。

 

池上 そう、実は、これは後から聞いた話なんですが、

番組の視聴率が下がっていたんで、打ち切りが決まっていた。

 

田中 えー。だからそのニュースをやることになった、と。

 

池上 そう。「イランの選挙なんか誰も見ないけど、どうせ打ち切りになるから、自由にやらせよう」ということだったらしいです。

そしたらいきなり視聴率が12%を超えた。前の週の倍の視聴率だったんだ。

番組スタッフの態度ががらりと変わって、

「どんどんやりましょう。中東問題でも何でもやりましょう」って。(笑)

それでニュース解説番組をやっていったら、その度にどんどん視聴率が上がった。

 

田中 いやー、結果を出しているというところがキモですね。

 

池上 なんと番組の最終回は、沖縄にあるアメリカ軍基地の問題を扱った。

「嘉手納基地レポート」というのをやったんです、

そしたら視聴率は14%をこえた。

 

田中 信じられない数字ですね。

 

池上 これで番組が打ち切りになった。

そしたらフジテレビが「テレ朝さんの番組が打ち切りになったんですね、うちでやりませんか」と声をかけてきた。

そこで、くりぃむしちゅーの上田さんと、

アナウンサーの滝川クリステルさんの2人がMCで、日本にいる外国人をスタジオに並べて、私がニュースを解説するという番組が始まった。

これが高い視聴率をとる。するとテレ朝の担当者が私のところに来て、「番組をやってください」と。

 

田中 ひっぱりだこ。

 

池上 「池上彰の学べるニュース」という、池上さんがメインの番組をやりたい」と言ってきたんだけど、

レギュラーを受けると負担が大きくて、取材ができないから何とか断れないかなと思って、

「じゃあゴールデンタイムにやるならいいですよ」とふっかけました。

 

田中 条件をつけたんですね(笑)

 

池上 そう。(笑)

向こうは、当初、夜の11時くらいを考えていたらしいんだね。

ゴールデンタイムに国際ニュースをやるなんてありえないから、

「それは無理です」と断られるだろうと思っていた。

そしたら・・・

「やりましょう」と。

「他の番組を動かして、水曜日の19時からやります」と言われ、

「えー」と、ひくにひけなくなってしまった。

 

田中 やると言ってしまったから(笑)

 

池上 そう、それで、毎週、国際問題をやったら、コンスタントに数字が出た。

 

田中 皆やっぱり見たかったんだ。

 

池上 ゴールデンウィークに2時間の特番をやったら、平均視聴率が23.4%。

 

田中 えー。信じられないですね。さっきの視聴率をはるかに超えましたね。

 

池上 そう、信じられない。平均だよ。だから、瞬間最高視聴率は29%くらい。

その数字が出たときに、何をやっていたかというと、

「原爆には、ウラン型とプルトニウム型があります」というディープな話を図で解説していた。

 

田中 うそー。

 

池上 これで「ニュースをわかりやすく解説する」というコンセプトが成り立つんだということになった。

そしたら他の局からも声がかかって、断れずについつい番組を受けていたら、がんじがらめになってしまった。

インプットする時間もないしと思い「レギュラーを全部辞めます」と宣言をしたら、起きたんだ。3・11が。

 

田中 そのタイミングだったですね。

 

池上 そう。いくら番組を辞めることになったといっても、

3.11のときにジャーナリストとしてやらないわけにはいかないだろう。

レギュラーは辞めたけれども、特番だけ受けることにした。

だから実は前より出演の回数が減っている。

 

田中 今でも毎日のように見かけている感覚がありますけどね。(笑)

 

池上 まあそうじゃないんですよ(笑)

 

 

第四回:池上彰と考える「国際ニュースに興味ない」という先入観

 

田中 つまり、「国際ニュースに興味ない」と皆思っているけれども、いや、実はそうではなかった。

池上さんは、見せ方が悪いんだ、工夫が必要なんだとおっしゃっていますよね。ただどういう工夫が必要なのかというところで、

僕がまず課題としてあるのは、制作側と出演者側のずれだと思っています。

例えば、ジャーナリストがどんなに国際ニュースが大事だと言っても、

番組を作る側は、記者ではないですから、海外の報道現場に行く機会が少ない。それは役割分担ですから当然ですね。だから「工夫しろ」と言われても、ぴんとこないですよね。

 

池上 その通り。そうなんだよ。

 

田中 その隙間をいかにすりあわせていくかが大切かなと。「ニュースは難しい話ではないんだよ」とどう伝えていくべきなんでしょうね。

 

池上 そうなんだよ。だから例えば、番組で中東問題を取り上げるとするじゃない。

そうすると当然、中東問題の専門家をスタジオに呼んで解説してもらうよね。

 

田中 はい、そうなりますね。

 

池上 専門家は日頃、専門家同士で、専門的な話をしているから、

皆が「何がわからないのか」わからない。

大学の先生も番組に来るけど、そういう大学の学生はレベルが高いから、

普段、大学で授業をしていても、学生は理解できてしまう。

テレビを見ている一般のおじいちゃんやおばあちゃん、子どもたちが、

「何がわからないか」ということがわかっていないわけだよね、

そうすると誰もテレビを見ない、数字も下がるから、国際ニュースは扱わない。

この悪循環になる。

 

田中 本当にそうですね。僕は学校の授業でよくおいていかれていたのでその気持ちがわかります。(笑)

 

池上 私の場合は幸いなことに「こどもニュース」で11年間、ニュースを解説していた。

しかも、番組スタッフが報道の人間じゃなかったから、テレビのニュースを見ていないし、新聞も読んでない。そういった人たちや、子どもたちに向けて「そもそも中東問題とは何か」というのをやっていたから、「何がわからないのか」がわかっていた。

例えば、「ユダヤ教とイスラム教とキリスト教の神様は同じだ」ということを

皆が知らないことを私は知っている。

 

田中 なるほど。

 

池上 中東やイスラムの専門家はさ、「何言ってんだよ」と思うわけ。

 

田中 そんなこと当たり前だろう、と。

 

池上 そう。そもそもユダヤ教とイスラム教とキリスト教は、

ヘブライ語で「ヤハウェ」、英語で「ゴッド」、アラビア語で「アッラー」と呼んでいるだけで、神様という意味にしかすぎないんですよ。

というと皆、「へえ」となるよね。

 

田中 なりますね。

 

池上 でしょ。ここから解説していけばいい。

 

聖地エルサレムを説明するのは、アブラハムが神様から、我が子イサクを犠牲にしろと言われ、山を登って丘の上にある岩に、我が子を横たえて、我が子を殺そうとした瞬間、神様が、「イサクを殺さなくていい。これは、お前が本当に神様の言うことを聞くかどうかを試したにすぎないんだ。」という声を聞いdた。という話が『旧約聖書』の最初の方にのっている。

 

田中 はい。

 

池上 その岩で神様の声が聞こえたから、そこに神殿を作った。

これがユダヤ教の神殿になるわけだよね。

 

その神殿にユダヤ教徒であるイエスが布教に来るわけだ。

そこで捕まって十字架にかけられて処刑されてしまう。

そして神殿のすぐ横にイエスのお墓ができるわけだ。

 

田中 お、有名なイエス・キリストですね。

 

池上 ユダヤ教には救世主信仰があり、イエスが処刑された後、イエスに付き従ってきた人は、「イエスこそが救世主(イエス)ではないか」と考えるようになる。こうしてキリスト教が生まれる。

そのあと、ユダヤ王国が滅ぼされて神殿が破壊されてしまった。その結果、最初の岩だけがむき出しになってしまった。

その後、アラビア半島のメディナにいたムハンマドが天馬に乗って「遠くの町」に行き、むき出しになっていた岩に足をついて天に登って、また天から降りてきたという話が伝わる。

メディナからみて「遠くの町」というのがエルサレムであろうということで、

イスラム教徒たちは、「あの岩を大事に守ろうじゃないか」ということになり、ドームをつくり金箔をはるわけ、それが岩のドームなんだよね。

だからエルサレムには、わずか1キロ四方に3つの宗教の聖地があるんだよ。

 

田中 直接聞くとさらにわかりやすい。(笑)

 

池上 こういう説明をすれば、皆が面白がって聞いてくれるし、誰でもわかるよね。

本当に基礎の基礎からやると同時に、そこにはドラマがあるんです。

中東問題の専門家はこういう説明はしないわけ。

 

第五回:伝えるためには「ストーリーをつくれ」ー池上彰流「カンボジア」の伝え方ー

 

田中 最初に申し上げたように、僕は5年前に始めてカンボジアに行ってから足繁く通っています。カンボジアは現在フン・セン首相が30年以上政権を握る、いわゆる独裁体制です。汚職に対する強い批判もあります。一方でこれまで国をつくってきた強いリーダーという声もあります。

今シリアは泥沼化と言われていますが、独裁政権というのは、泥沼化する可能性を秘めていて、悲惨な状況になる前に、何ができるだろうと考えているわけです。ポル・ポトの時代に起きたクメール・ルージュのような大虐殺は絶対に繰り返してはいけないですから。

しかし、独裁や悲惨な人権侵害って「どこの国でもあるよね」と皆思うわけです。

 

池上 そうなっちゃうよね。

 

田中 はい、なのでそんなカンボジアの状況や、いろんな国の問題を顕在化させることが、メディアやジャーナリストの1つの役割だと思うんです。

そのためにどう伝えていけばいいか模索しています。

 

池上 うん、カンボジアでいうと、カンボジアの国づくりに日本が貢献して、日本人が2人、その過程で犠牲になっているわけじゃない。

 

田中 本当にその通りですね、日本人が亡くなっているということを知らない人も多いです。

 

池上 「カンボジアという国をつくるために日本人が血を流しているんだよ」という話をするだけでだいぶ伝わり方が違うよね。

 

田中 そうですね、先ほどの話と同じで、皆知っているものだと思っている。

 

池上 日本は自衛隊があちこちでPKO(国連平和維持活動)をやっています。

南スーダンですったもんだがあったけれども、最初に派遣されたのはカンボジアでしょ。

 

あるいはベトナム戦争が激化した結果、カンボジアが巻き込まれた。

そのあと大勢の難民が出るんです。

 

田中 インドシナ難民ですね。

 

池上 そう。国から小舟で逃げ出すので、南シナ海で舟が転覆して大勢死んでしまったわけ。

 

田中 今のヨーロッパの難民と似ていますよね。

 

池上 似ているよね。

難民は日本に来ないと思い込み、日本は人ごとだった。

そしたらたまたま日本の神戸に向かう貨物船が、南シナ海で漂流していたインドシナの人を救うわけだよ。

 

田中 ほう。

 

池上 そして神戸港で彼らを降ろそうとしたら、日本側が「いやいや、ここで降ろしてもらったら困ります。日本は難民を受け入れません」と言って、難民を神戸で降ろさせなかった。

そのあとインドシナの人たちは横浜に向かうんだけど、そこでも日本は降ろさせなかった。

するとこの出来事が「日本はボートピープルの上陸を拒否した」という国際ニュースになるわけだ。

そしたらアメリカが「だったらうちが難民を引き取りますよ」と受け入れを表明するわけだ。

日本は「よかった、よかった。アメリカが難民を引き取ってくれた。これからボートピープルがきたら、皆アメリカに送ろう」とやりだしたら、アメリカは「お前、何やっているんだ」と。

 

田中 当然、アメリカは冷たい目で日本を見ますね。

 

池上 そう、そして香港にも大量の難民がたどり着いて、難民キャンプができていったんだ。インドシナ周辺の貧しい国々が、難民がたどりついたときのために難民キャンプをつくったんだな。

それなのにアジアで1番お金持ちの国・日本が難民を全く受け入れようとしなかった。だから日本は国際的な批判を浴びるわけ。

そこでようやく日本は難民条約を批准するんだ。それまで日本は難民条約すら批准していなかった。

 

田中 難民条約を批准するまでにそういう経緯があったですね。めちゃくちゃ面白い。

 

池上 難民条約を批准すると、難民をいったん無条件で受け入れなければいけない。だから難民定住センターをつくった。

東日本には神奈川県の大和市、西日本には兵庫県の姫路市につくりました。

 

難民として認定されたら定住を認めます。

そしてその子どもたちに日本語の教育をします。

約10万人のインドシナ難民が日本にきて永住権をもらい、そのときの子どもたちの多くが日本に帰化している。

だから、今日本にはベトナム系日本人、カンボジア系日本人が大勢いるわけだな。

いまベトナム料理店がたくさんあるよね。その多くは、当時のインドシナ難民が日本に定住してお店を開いた。

 

田中 そうだったんですね、僕もよくお世話になっています。

 

池上 「へえ」となるだろ。

ベトナムやカンボジアの人の顔は日本人に似ている人が多く、そして仏教徒だろ?

 

田中 そうですね。

 

池上 だから日本に定着できたんだよね。あと、ベトナムやカンボジアの人って謙虚だから、日本に対して「受け入れてくれてありがとうございます」と感謝の言葉を言ったりするんだよ。

 

田中 そういう人たちがカンボジアに帰って日本への感謝を言葉にすると、周りのカンボジア人も「へえ、日本っていい国じゃん」と好きになる。

それが国の交流になりますね。

 

池上 そう、その通り。

イスラム教徒の難民は、なかなか日本に受け入れられにくいんだよね

 

田中 日本にはモスクも少ないですしね。

 

池上 そう。

あとは、イスラムの場合、お礼を言わないんだよ。なぜかというと、施しをした人が天国にいきやすくなるから。つまり、お礼を言うべきは、私に施しをした人だろうってなるわけ。

これが、日本人とイスラム教徒がなかなかうまくいかない理由でもあるんだよね。

 

田中 なるほど、宗教の違いは難しい・・・。

 

池上 他にも、有名なドラマ・金八先生の生みの親といわれる小山内美江子さんという方がいるんだけど、

小山内さんはドラマでインドシナ難民の話を取り上げた。

そのとき初めてポル・ポトによるあの悲惨な大虐殺のことを学んだんだよ。

そしたら、「私はカンボジアの難民の話をドラマにしてお金儲けをしてしまった」と。

「だったらカンボジアの人たちに恩返しをしなければいけないんじゃないか」と思って、カンボジアに学校をつくる運動にのりだした。

 

田中 ああ、良い話ですね。

 

池上 いいよね。

さらにいえば、昔、毎日小学生新聞で子どもからこんな質問がありました。

「日本はお金がないのにどうして外国の人を助けるんですか?」

私はこう答えました。

「君たちのおじいちゃんやおばあちゃんが子どものとき、日本は戦争に負け、食べるものがなくなってしまった。そのときユニセフやガリオア・エロアという世界中の団体からの援助によって、学校給食で栄養をとり命を永らえることができたんだ。

つまり外国からの援助によって、君たちのおじいさんやおばあさんは生き延びることができたんだ。

もし生き延びることができていなければ、君たちはこの世にいないんだよ。

他にも、東海道新幹線や名神高速道路も外国からお金を借りて作ったんだ。

海外から助けてもらって今の日本があるんだ。そろそろ日本が恩返しをする番じゃないかな」と。

 

田中 やばい、僕がジーンときました。知っていてもそう伝えられると・・・。

次の国に恩を贈るってことですよね。

 

池上 そう、そうなの。つまりこれはストーリーなんだ。

伝えるためにはストーリーをつくれるかどうか。

「日本だって過去に援助してもらったんだから、今、日本が援助するのは当然でしょ」というのは、抽象的な論だから心に響かない。

 

田中 押し付けになりますね。

 

池上 ストーリーを作れば、話に耳を傾けてくれるわけだ。

「君たちのおじいちゃん、おばあちゃんが、君たちの頃に、生き延びることができたのは」というストーリー。

 

田中 一気に身近になりますね。

 

池上 そう。

 

田中 ああ、どきどきする。

 

池上 あるいは、インドシナでいうと、ASEANが経済統合したでしょ。AECになった。

ヨーロッパで言えばEECなんだな。

 

田中 どういうことですか?

 

池上 ヨーロッパって今EUだよね。

最初は、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)で、それを経済的に統合しようとして、

EEC(欧州経済共同体)ができ、EC(欧州共同体)になり、EU(欧州連合)になった。

 

ASEAN諸国のAEC(ASEAN経済共同体)というのは、ヨーロッパでいうEECのレベル。これからEC、EUになるという目標がある。

だからAECもやがてAUになろうと思っているわけ。

実はアフリカ連合がすでにAUを名乗っているからこの名称は使えないんだけどね。

ようやくそこまでなって、貿易が自由にできるようになってきた。

 

田中 なるほど、これからより経済が成長していきますね。

 

池上 カンボジアに行って「何事?」と思ったことがあったんです。

日本のあちこちにマンガ喫茶があるよね。マンガ喫茶って、すぐ潰れてまたすぐできるんだよ。

 

田中 え、そうなんですか。

 

池上 そうなんだよ。マンガ喫茶が潰れたら、大量の漫画が出てくるわけじゃない。しかもかなり汚れている。

このマンガをベトナムに運んで、ベトナムの港で陸揚げをして「荷物を開けずに」そのままカンボジアに持っていけるんだ。なぜなら、今はAECになったから。

その運ばれてきたマンガを、カンボジアの若者たちがヤスリをかけて、綺麗にする。そしてそのマンガを日本に送り、日本でオープンした新しいマンガ喫茶に、カンボジアの若者が綺麗にしたマンガが入るんだよ。

 

田中 え、初めて聞きました・・・。

 

池上 知らないだろう。

そしてさ、これの1番いいところはね、最初、このマンガを綺麗にする作業は日本でやっていたんだよ。

どうなると思う?

漫画だろ、日本人は日本語が読めるから仕事中に漫画を読み始めてしまうんだ。

カンボジア人は日本語が読めないので漫画を読まない、つまり誰も仕事をサボらないっていうんで、こりゃいいというわけだ。

 

田中 おおおおお。

 

池上 おおおおお。

 

田中 それはどこから情報を知ったんですか?

 

池上 カンボジアにロケをしにいったときに知ったんだよ。

北陸に、漫画を供給する会社があるんです。

人件費が安いから、マンガを船でカンボジアに送って船で運んでまた日本に戻すほうが、日本国内でやるよりはるかに安いというわけだ。

 

田中 経済はつながっていますねー。

 

池上 つながっているでしょ。そこで仕事が生まれているわけ。

となると、日本で若い人に話をするときに、

「君たちがマンガ喫茶で読む漫画は、実はカンボジアの若者が綺麗にしてくれたのかもしれないんだよ」という話ができるじゃない。

1番いいのはな、「日本語が読めないから、仕事をサボらないんだよ」という

オチがつくわけだ。(笑)これが、ストーリーをどう作るかということ。

 

田中 いやー、僕、池上ワールドにひきこまれています。

 

第六回:アメリカ大統領トランプ氏の一言に池上彰が絶賛したワケ

ー政治家こそ政策や政党を変えるべき?ー

 

 

田中 ぶれるという話に戻るんですが、ブレるという言葉はとてもマイナスな印象を受けますが、言い方を変えれば柔軟に生きているとも言えますよね。

 

「昔はこんな考え方だったんだけど、今はこんな考え方に変わったんだ」という人間の変化を認めてあげるにはどうしたらいいんだろうと、よく考えるんです。

 

政治家だって、「10年前はこういう政策をもっていたけれど、こっちのほうがよりよい社会をつくれると思ったから、今はこういう政策にしています」でいいと思うんです。

逆にそうでないと、「議員になって何も学んでいない人」と思ってしまいます。

しかし、今の社会だと「言ったことを実行していないじゃないか!」とものすごく批判を浴びます。

その批判を気にするあまり、のびのびと日本の社会のために活動できる人が減ってしまうのは、もったいない。

何が言いたかったかというと、「この人はこういう人間だから」みたいな決めつけや押しつけって、その人にある宝物を失っている気がするんです。

 

池上 そうだよ。何事もやってみなきゃわかんないよな。やってみてだめだったら、政策を変えるのは当たり前だよ。

アメリカ大統領のトランプがいいこと言っているよ。

 

トランプは昔、民主党員だったでしょ。

だけど2016年の大統領選挙は、共和党から出馬していた。

「昔、言っていたことと違うじゃないか」と追及されたとき、

トランプはなんて言ったと思う?

 

「俺は日々進化している。」

これ、使えるぜ。(笑)

 

田中 (笑)何も言い返せません。秀逸ですね。

 

池上 これはトランプ風の言い方だけど、

人間はどんどん成長するんだから、「失敗から学んでいるんです」って言えばいいよな。

 

田中 本当にそうですね。

それでいうと日本では、小池百合子東京都知事は、これまで党を転々として、政界渡り鳥とまで言われ批判されているじゃないですか。

 

池上 ちょっとまって、あれは違うんだよ、よーく見てごらん。

自分の意思で政党を変えたのは1回だけだよ。

 

田中 え・・・?

 

池上 彼女がいた党は、他の党にM&Aをされているんだ。

最初、小池さんは日本新党に入ったわけだよ。

そのあと、日本新党が新進党と合併して、たまたま他の党になったに過ぎないわけ。そのあとの自由党もそうだよ。

もしあなたがある会社に入って、他の会社と合併したらその会社に行くのは当たり前だろ?

東海銀行に就職した人が「なんでお前はいま三菱東京UFJにいるんだ」と言われてもね・・・。

そりゃ、東海銀行が三和銀行と一緒になってUFJになり、UFJが東京三菱と一緒になって三菱東京UFJとなったんだから当然だよね。これと何が違うんでしょう。ちなみに、このとき一緒になった銀行名は「東京三菱」。それが合併して「三菱東京UGJ」に。そして今度は東京が消えて「三菱UFJ」になる。この過程を説明するだけで、銀行内で旧三菱銀行系と旧東京銀行系の暗闘がうかがえる。

だから「小池さんが政党を転々としている」という批判はおかしい。

 

田中 僕の発言があまりに無知すぎて、恥ずかしいです・・・。

 

ただ、いい機会なので言っておくと、今の私の発言というのは、自分で調べないで、ブログやSNSなど、ネットからの情報を基にしたわけです。

で、正直なところ、「知識を持っていそうな人」のネットでの発信を、若い人たちが読んで、信じてしまうことが多いんです。やっぱりもっともらしいですし、知識もそれなりにあることは事実です。

そして、本当は事実ではない誤った知識なのにも関わらず、自分がよく知っている気分になってしまう。

頭でっかちの人が増えてきた中で、自分の足で現場に行って、自分の目で見ることの価値が上がってきている気がします。

 

池上 そうだね、「話を鵜呑みにしないで自分で確認を取ろう」という話だよね。

 

田中 今の僕みたいな「恥ずかしい・・・!」というような、はっとする体験をしなきゃいけない。

 

池上 そうだね。

さっきの話の続きしていい?

例えば小池さんが政党を転々としたとするよ。でもさ、何が悪いんだ?

だって政治家としてやりたいことがあるわけだろ?

小さな政党にいてやりたいことが実現できないのであれば、

大きな政党にいく。あるいは、東京都知事になったり、総理大臣になったりすれば、自分の想いを実現できるでしょう?

そのために努力をしていることは何が悪いの?というわけだな。

 

田中 いやー、まさに。

 

池上 共産党みたいな、いつまでも自分の主張をし続けて、少数派で終わるのはどうなのという話。

共産党は首尾一貫しているから、それはそれで素晴らしいと思うけれど、

「それで世の中は変えられるんですか?」という批判にもなりうるよね。

 

田中:僕たちが転職するのと一緒ですよね。

やりたいことに向かって転職することに、他の人から批判される筋合いはないですから。

 

池上 そういうことだよね、

ただ、転職するときの仁義をどう切るかって話はあるよ。

例えば、ある会社でMBAを取るためにアメリカに派遣されて、留学が終わり日本に戻りました。

その資格を使って、すぐによその会社に移ったら、会社としては「なんだよ」という話になるわけでしょ。

その場合はそれなりの奉公を会社にしてからだよね。

今、留学から会社に戻ってきてすぐに転職した場合は、その留学費用払わないといけないってことになっているところもあるからその場合なら問題はないけれど。

転職すること自体は悪くない。ただ転職をするときに、それまでいた職場に後ろ足で砂をかけるようなことはしてはいけないよってことだ。

 

第七回:池上彰と考える「複雑なことを複雑と伝える大切さ」ー子ども騙しをしてはいけない。右翼や左翼というレッテル貼りの無意味さ

 

 

田中 池上さんはご著書に、「複雑なことを複雑と伝える事が大切だ」と書かれていました。

わかりやすく伝えるけれども、単純化はしないようにしている。この言葉、すごくいいなと思いました。

 

世の中はそんなに単純じゃないということを伝えるのがジャーナリストの役割かもしれないと思うと同時に、

世の中はわかりやすい、というより単純で理解しやすいものを求めたがりますよね。

例えば、「わかりにくい、読みにくい」記事や文章を書くと、指摘されますよね。

 

池上 そうですね。

 

田中 白か黒という答えすら存在していないこともある。そのぐちゃっとした微妙なニュアンスのものをどう伝えていくことを心がけているんですか?

 

 

 

池上 例えば、先日、NHKのクロ現+で子どもにシリアの内戦を解説するという番組をやったんだ。

http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4020/index.html

 

番組のスタッフが、「子どもたちにシリアの内戦のことを伝えたい。それをわかりやすく伝えるために学級崩壊に例えたい」と言ってきた。

私は「それは違う」と言った。

 

田中 どうしてですか?

 

池上 シリアの内戦はシリアの内戦として伝えるべきだと思ったんです。

ざっくりとしたものに例えたら、逆に子どもたちにはわからない。

 

アサド大統領という独裁者がいて、よその国が民主化運動を始めているから、「あっ自分たちもできるんだ」と、シリアの国民が民主化運動を始めたら、政府から弾圧された。

弾圧しろと命ぜられた政府軍の中に、

「同じ国民に銃を向けるなんて嫌です」という連中が、アサド大統領の命令を聞かずに、反政府側、民主化運動をしている人たちについた。

その結果、内戦が始まった。

そしたら、周りの国々が利用しようと次々に両側について、

その結果、泥沼になった。という話を丁寧にやっていけば子どもだって理解できるよね。

 

田中 無理に例えようとするのは違うと。

 

池上 そう、かなり乱暴だよね。

学級崩壊に例えると、「校長先生は誰なんだ」とか、「どうしてよそのクラスがそこに介入するんだ」という突っ込みが入ってしまう。学級崩壊に例えた説明は、ちょっと無理があるんだよね。

子どもだましの説明をしてはいけない。

 

田中 きちんと向き合うということですね。

 

池上 そういうこと。

 

田中 社会は複雑なのに、それでも、それだから?「私は右だ、左だ」とか、「リベラルだ、コンサバだ」とやたら分けたがる人がいますよね。

 

池上 うん。

 

田中 あっ、ごめんなさい、1つ面白い話をしていいですか?(笑)

友人が、「ネトウヨ」(ネット右翼)のことを、「ネットでウヨウヨしている人のことでしょ?」と僕に言ってきたことがあって。(笑)

 

池上 それは面白いなー。

 

田中 一瞬空気がとまって、そのあと私も笑いがとまらなかったんですが、

実はこれって今の社会を表している1つだと思っていて、

それこそ、子どもだましというか、率先して大人が理解しないまま言葉にしていると、さらに間違ったまま若者が理解していく。

これ将来的に見て、どこかで衝突が起きてしまう予感がして。

言葉が1人歩きをして誤った認識が広がってしまう。

そもそも「右翼や左翼って何?」という人は大勢いるわけですから。

 

間違ったままの理解が進むと、

それぞれのテーマについてその都度考え方が違うのに、すぐに「あの人は右だから」と決めつけてしまう。

これは議論にならない思考停止状態ですよね。

だから、かっこよく言いたいだけの人は口にするべきではない。逆にかっこわるいです。

こういったことを子どもたちに説明して下さいって言われたらどうします?

 

池上 昔、番組で右翼と左翼の違いをやったことがあるよ、それは元々フランス革命のときのことなんだ。

 

フランス革命によって、国民議会が招集されたときに、

議長席から見て右側に、「国王を認めるべきだ」という連中が座り、

左側に「国王の権力を人民に移すべきだ」という連中が座ったことから、

結果的に、古き良き伝統維持、現状維持を望む人たちを右翼と呼び、現状を変えようという人たちを左翼と呼ぶようになった。

 

その後ロシア革命がおきて、共産主義を目指そうということになった。

ということは、現状を変えようという意味で左翼だよね。

 

そのときに「左翼=共産主義」というイメージがついちゃったわけだ。

本来、左翼は共産主義とは関係ない。

 

要するに、右翼、左翼というのは単なるレッテル張りだよな。

 

田中 そのレッテルを今の人たちが簡単に使う事に対してどう思われますか?

 

池上 そういう勝手なレッテル張りをすべきでないということだよね。

例えば、「右翼は教育勅語を重視するのか」という話について、

今でも大切と言う人もいるけれども、右翼の中でも、「もう終わった話だ」と否定する人だっているからね。

 

さらに言えば、保守は今の体制を守ろうというわけだ。

それにたいして反保守とか、革新というのは世の中を変えようというわけでしょ。

すると普通は、保守、つまり権力を握っている体制側の人が「憲法守れ」と言うんだよ。

 

なのに日本は、権力を握っている側が、「憲法改正すべきだ」というわけだよ、

野党が憲法守れといい、政権をとっている政権政党が憲法を変えるべきだという。日本はねじれているんだ。ものすごく珍しい国。

 

田中 そういったレッテル張りはどうすれば私たちは変えていけるんでしょうね。

 

池上 そう、そこなんだよ、それでいうと、

フランスのマリーヌ・ルペンが党首である国民戦線は「極右政党」と

日本では報道されているじゃない。

フランス大統領選挙のときに、ルペンが何を主張しているのかなと気になって調べてみたんだよ。

そしたらルペンは、「難民の受け入れを1年間に1万人にすべきだ」と言っているんだ。

日本はどう?

2015年に28人、2,016年に27人 だよ。

 

さらにフランスは、フランスで生まれた子どもは自動的にフランス人になる。

ルペンはそれを良くないと考えて、「フランス人から生まれた子どもをフランス人にする、それを日本がやっている。日本のようにすべきだ」と言っているんだ。

 

日本は日本で外国人が子どもを産んでも日本人にはなれないよね。

日本人から生まれた子どもが自動的に日本人になるでしょ。

つまり、ルペンの理想は日本。

 

 

 

その国民戦線を極右といったら、

「おーい、日本はどうなんだよ〜(笑)極右よりもっと極右になるぜ〜(笑)」

と考えると、右翼とか左翼とかレッテル張りは意味がないという話だね。

 

田中 こういった知識が入ってくることで、レッテル貼りをする人が減るんではないかと思えましたね。

 

池上 他にも、トランプは排外主義だって言われているじゃない。なぜか。

前大統領のオバマは「難民を1年間に10万人受け入れる」と言っていたのに、トランプは「5万人にすべきだ」と言っているからなんだよね。

これを「排外主義だ」と呼んでいるんだよ。おいおい。(笑)

 

 

田中 おいおい(笑)

 

池上 レッテル張りはやっぱりいけないということがわかるよね。

 

 

第八回:「だからマスゴミは」はまかり通るワケ

ー「今は記者にとって辛い時代だな」ージャーナリストが今後生き残るためのヒントを考える

 

田中 今は非常にメディアと市民がかけはなれている気がします。市民は、エリートや権力が嫌いですから、すぐに「だからマスゴミは」と言いますよね。

それって、その人のうっぷんを晴らすにはいいかもしれないけれど、主語が大きすぎて、いくらそんなこと言っていても変わらないじゃないですか。

むしろそれを言うことで、テレビ局の内部の人が嫌な気持ちになるわけで。

だってメディアの人たちだって、

内部の組織で、懸命に正義を持って闘っているわけだから。

一方で、メディアの人たちは、メディアの人たち同士で、メディアについて語るだけではなく、見下さずに一般の人にもわかるような議論をしていくべきだと思うんですね。

その架け橋をつくるためには、どうしたらいいのか、もやもやしています。

 

 

池上 なるほど。実は私がマスコミに入る頃は、マスコミで働く人たちはエリートでもなんでもなかったんだ。

新聞記者なんて、学校の成績が悪かったり、学生運動をしていたりして、行き場のない連中が記者になっていた。もっといえば逮捕歴があったりして、まともに就職できない連中のたまり場だった。アナウンサーはもちろん別だよ(笑)

 

田中 へえ。エリートじゃなかったんですね。

 

池上 そう、社会の嫌われもんでさ、鼻つまみ者だった。

地方に行くと、悪質なやつがいて、「取材してやるから金払え」みたいなことを昔、やっていたんだよ。

本来なら記者側がお金を払ってでも取材させてほしいのに。そんなもんだった。

 

それがだんだんエリート集団になってきて、庶民から離れていった。

今はネットのメディアがどんどん出てきて、テレビ局も新聞社も経営状態が悪くなり、給料が下がるということは、ある意味ではいいことなんじゃないかな。

 

田中 庶民の思いがわかるようになってきますからね。

 

池上 そういうことだね。昔は生活がかつかつで苦しかったり、就職できない落ちこぼれだったりしたから庶民の気持ちもわかっていた。

総理大臣と飯を食べて、総理大臣の代弁をするというのはなかった。

今と昔の話で言うと、

昔、記者たちは記者クラブで情報を独占していた。しかし今は政府や役所が記者発表したあとウェブサイトに内容を全部載せているから、一般の人も見ることができる。記者の書いた記事が本当かどうか確認もできるわけだね。

例えば、私も日本銀行の金融政策について、新聞記事を読んで納得できないときは、日本銀行のホームページで発表された内容を見るわけ。

 

田中 発表文が上がっていますね。

 

池上 そう。そうするとさ、「あっ、この報道、ちょっとニュアンス違うじゃん。ポイントはこっちだろう」と。

 

田中 全部わかるんですね。

 

池上 そういう意味では記者たちはつらい時代だよね。(笑)

昔は情報を独占していたから、マスコミの人たちから情報を聞くしかなかった。だからこれまでは記者は崇められていたのに、

「なんだよ、全部ばれちゃうじゃん」という時代だよね。

 

田中 つまり、エリートから庶民の感覚に近づきつつあると。

そういう意味では今では記者でなくても誰でも取材ができますよね。

一方で本格的に取材をしている、フリーのジャーナリストは激減していると耳にします。

理由はいろいろあると思うんですが、このことについてはどう思われます?

 

池上 これはそもそもフリーランスの発表媒体がなくなってしまっていることが大きいね。

昔は『月刊現代』とか、いくつもあった。出版業界全体の落ち込みだよな。

 

それこそさっきの話で、学生運動をやってさらには新聞社にも就職できない人たちがフリーランスとして、週刊誌のトップ屋というのになった。

トップ屋というのは、週刊誌の契約社員として情報をとってきて、その情報をメモで上げると、筆の立つ人間が、全部まとめてさらさらと書いて、トップ記事に仕立てる、トップの記事を取ってくる人だからトップ屋というんだ。

 

田中 へえ、初めて聞きました。

あまり一般的には知られていませんが今でもフリーランスではありながら、週刊誌と専属契約している人はいますね。

 

池上 そうだね、だから優秀な人が入ってくる週刊文春は特ダネが出るんだな。

だけど昔は週刊現代や週刊ポストに、そういう優秀な人がいっぱいいたんだよ。だけど、どんどん販売部数が減って、赤字になっているような状態だから活躍の場が減っている。

 

田中 その上で、私は1つの会社に固執しない方法を模索するしかないと思う

わけですが、生きていくためにはどうするべきだと思います?

 

池上 それでいうと、昔はなかったネットのニュースあるいはテレビでも、地上波だけじゃなくて、BSなり、CSなり、発表の場は広がっている。

そういった会社は正社員だけじゃとてもまかなえないわけだ。

フリーランスの人たちが制作プロダクションと契約を結んで仕事をしている。

今もテレビ朝日でやっている番組のスタッフの多くは、制作プロダクションと個人契約をしているフリーの人。

 

田中 社員の人はほとんどいないんですよね。

 

池上 そう。社員も番組を制作しているけど、番組全体を監督する仕事のことが多い。

残念ながら、「活字」の活躍の場は減ってきているけれど、

それ以外での活躍の場は、むしろ増えているんじゃないかな。

 

田中 なるほど。ただ私はノンフィクションが好きですし、「書く」ことって全ての基本だから、活字文化が盛り上がってほしいんです。(笑)

 

池上 わかる、わかる。

だから「新たなノンフィクションがどうあるべきか」ということを考えなければいけない。

伝統的なノンフィクションは、今は全然売れないんだよね。

だから出版社も本を出してくれない。

 

田中 それこそ、国際ニュースと一緒で、出版社の人に理解してもらわないといけない。

池上さんがテレビで結果を出したから、国際ニュースを扱うようになったことと、ノンフィクションも一緒だなと思います。

 

 

池上 新しいノンフィクションでいうと『バッタを倒しにアフリカへ』という

光文社新書から出ているすごくおもしろい本があるよ。

自らバッタのカタチになってバッタの色にしている人が表紙になっている。

 

田中 読んでみます。どんな感想をもちました?

 

池上 あっこういうノンフィクションのかたちがあるんだ、と。

 

昔の本多勝一や沢木耕太郎、あるいは本田靖春という元読売の記者もいたけど、

あの頃一世を風靡したノンフィクションというのは、当時の人にとっては新しかったんだよ。

「あっこういうノンフィクションがあるんだ」という新しいものを作り出せるかだどうかだと思うよね。

 

田中 そうですね、また相談させて下さい。今日はありがとうございました。

 

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